第4章/ビッグマンを探せ!

 能工に大敗した2日後。練習前に、コーチが部員を集めて長ったらしい説教をした。大敗した原因は基本が出来ていなかったことにあるから、練習内容を見直して、基本練習を徹底的にやるということだった。その日は、ディフェンスのステップや、ピボットの反復練習を嫌になるほど繰り返した。いつも以上に足腰が疲れた。

 練習後、部室の椅子に腰掛けた。香田も疲れ果てて椅子の背に凭(もた)れていた。部室を見回して、スリーオンスリーの大会に誘おうと思い、センターの原を探した。原は椅子に腰掛けてバッシュの紐を緩めていた。原の所に向おうと思った瞬間、香田が話し掛けてきた。
「タゲ、ちょっと良いが?」
「どうした?」
「お盆の大文字祭りのイベントで、スリーオンスリーの大会があるんだ。一緒に出ねぇが?」
「香田も出るの?実は我(わ)も出るんだ」
「まじで。タゲも出るの?」
 香田が驚いた。
「実は、幼馴染に誘われて出るって約束してしまったんだ」
「何も、何も。気にするな、仕方ねぇよ。大会ではライバルになるばってお手柔らかに頼むよ」

 岳実との話が終わると、香田は原の所へ行った。
 会話が良く聞えなかったが、原は嬉しそうな笑顔を浮かべて頷(うなず)いた。
 話しえて戻ってきた香田に、探りを入れた。
「原と何を話してだんだ?」
「大会さ誘ったんだ。原は、二つ返事だったよ。これでメンバーようやくが揃ったよ」
「それは良がったなぁ…」と、笑顔を浮かべたが、内心、焦った。
 狙っていた原が香田に取られてしまった。
 原は目立ちたがり屋なので。スリーオンスリーの話をすれば、直ぐ食い付くと思っていた。案の定、食いつくことは食いついたが、それは隣人の釣り針だった。
「タゲ、どうした?着替えの途中でボーっとして」
 香田が言った。
「何でもねぇよ、ちょっと考え事だ」と作り笑いをした。

 岳実はアイザイヤトーマスがプリントされたTシャツの下裾を、股間まで伸ばして一物(いちもつ)を隠しながら、素早くパンツを履き替えた。時々、一物がチラッと、顔を出すことがあるが、男だけの部室ではご愛嬌だ。
 部室の中は、夏の暑気と、汗まみれの男たちの人いきれで、蒸し暑かった。替えたばかりTシャツに、早くも汗が滲(にじ)みはじめた。
 
 部室を出ると、体育館に出ると、居残りでシュート練習をしている部員が何人かいた。
 その中で慎一郎の姿が、目に留まった。
 彼は190㎝というバスケ部一の長身だ。中学ではバレーボールをやっていて跳躍力もある。バスケ部の中で、唯一、バレーボールでダンクができる。
 しかし如何せん、バスケが下手だった。ターンやドリブルは素に毛が生えたレベルだったし、シュートは全然入らなかった。
 力強いリバウンドだけが彼の持ち味だった。何とかベンチ入りはしているが、試合で活躍するレベルではなかった。

 岳実は悩んだ。慎一郎は、リバウンドが取れるという芹奈のリクエストに見合う人材だが…リバウンド以外は全く期待できない…
 シュート練習に励む慎一郎を遠目を眺めた。シュートを何度外しても諦めずにリバウンドに飛んでいた。何本目かのリバウンドシュートが、ようやく決まった時、慎一郎は、物凄く嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、「シンちゃんは、本当にバスケが好きなんだな」と思い、彼を誘うことに決めた。
 慎一郎が、メンバーになることで勝ち上がれないかも知れないが、一緒にバスケを楽しめれば、それで良いやと思った。

 第4章 終了